コワとシリ -序章-

コワとシリ

作:並木 穹

小さくて大きな出会い

一人の男の子は小さな木の横にただ立っていた。
両手をおなかの前で重ね、少しだけ力を入れて立っていた。
左を見てみたり、右を見てみたり、たまに下を見て、時折、上を見て大きく息を吸っていた。

そんな男の子のところに一人の女の子がやってきた。
その子は男の子のすぐそばまで来ると顔から足の先までを軽く見てから
「一人で何をしているの?」
と男の子に話しかけた。

男の子「・・え、ぼく?」
女の子「あはは、当たり前じゃん。君しかいないんだから」
男の子「・・・えっと、、みんなを見てる、、」
女の子「ふーん、なんで?」
男の子「・・・」
女の子「君、なまえは?」
男の子「・・コワ」
女の子「コワね、私はシリっていうの、よろしくねコワ」


コワ「うん、・・よろしく」
コワは少し嬉しそうだった。
シリ「で、コワはなんでみんなを見ているの?」
コワ「・・えっと、とくに理由はなくて、、」
シリ「そ、みんなと遊ばないの?」
コワ「・・でも友だちでもないし、、」
シリ「それならなればいいじゃん!」

そう言ってシリはコワの右手を掴み、みんなのところへ走り始めた。

コワ「え、え、、ちょっ」

コワはシリに手を引っ張られながらなんとか付いていく。

シリ「みんなー、私たちも入れてー!」
みんな「うん、いいよー!」

シリ「私はシリ、こっちは友だちのコワ。よろしくね!」

コワは嬉しくて、すごく嬉しくて、少し涙がこぼれた。

コワ

コワはその年に9つになる男の子。

とても怖がりな子だった。

何か行動する時も「こうなったらイヤだな」というイメージを先に持ってしまう。

「人に嫌われるのはイヤ」
「痛い思いをするのはイヤ」
「苦しい思いをするのはイヤ」
「辛い思いをするのはイヤ」
「悲しい思いをするのはイヤ」

だから自分にとって安全だとわからないことには手を出さない。

だから自分で決めて行動することもあまりない。

自分を友だちと呼ぶ子も、友だちと呼べる子もいなかった。

コワはとても優しい男の子だった。

生き物が好きだった。

人が笑うのが好きだった。

シリ

シリはその年に11になる女の子。

とても知りたがりな子だった。

どんなことでも知りたがった。

「なぜあの子は泣いているのだろう?」
「なぜあの子は笑っているのだろう?」
「なぜ自分は生まれたのだろう?」
「なぜ人は死ぬのだろう?」
「この森の外はどうなっているのだろう?」

知るための努力は惜しまなかった。

だから知るために常に考え、行動した。

コワとシリのいる世界

はじまりの場所は小さな森。

そこにはいくつかの村があり、それぞれの村には50人前後の老若男女の人が暮らしている。

これといった争いもなく、比較的に温厚な人間たちだった。

緑は豊かで、気候も穏やか、人々は農業と狩猟を軸に生活していた。

しかし、この森には一か所だけ足を踏み入れることを禁じられた場所があった。

そこはこちらと外界とを結ぶ場所。

外界は広大で、こちらとは違う生き物が存在し、それがいくつもの国となり暮らしている。
また、それぞれが様々な能力や技術を持っているという。

過去数十年、その場所に入ってこちらに戻ってきた者はいない。

??

太陽が沈みかけ、あたりがオレンジ色に染まる頃、コワは自宅のドアを勢いよく開けた。

コワ「ただいま、カーカ、チーチ、今日友だちができたんだよ!」

コワは興奮し、息を切らしながら両親に言った。

カーカ「えっ、ほんと?やったじゃないコワ」
とコワの母はその喜びを噛み締めつつ言った。

チーチ「そりゃーめでたいな、それでどんな子なんだい?」
コワの父は満面の笑顔でコワに尋ねた。

コワ「えっとね、名前はシリっていう女の子。年はわからないけど多分ぼくと同じくらいだと思う。すごく元気で、ぼく、村のみんなとも遊んだんだよ!」
コワは嬉しそうに今日のことを両親に話した。

チーチ「初めてできた友だちが女の子とは、コワも捨てたもんじゃないな。こりゃ将来が楽しみだ!ハッハッハッハ!」
チーチは上機嫌で笑った。

カーカ「何言ってるの、あなたったら。でもそのシリっていう子、この村の子かしら?覚えがない名前ね。」
カーカは少し考えながら言った。

コワ「たぶん違う村の子だと思う。帰りもぼくと違う方向に走って行ったし。明日も会えるかな、、。」
コワは少し悲しい気持ちになった。

チーチ「なーに大丈夫さ、なにせこの森はそんなに大きくもないし、村だって5つもないんだ。きっとすぐ会えるよ。」
カーカ「そうね、明日チーチがとなりの村にミルクを運びに行くからコワも一緒に行ってそのシリっていう子のことを村の人に聞いてみてもいいかもね。」

コワ「・・うん、ぼくも明日一緒に行く!」
コワは少しだけ考えて言った。

次の日の朝、チーチとコワは牛車に乗りゆっくりととなり村まで向かっていた。

ーー道中の会話

となり村はコワの村から牛車で2時間ほどのところにあった。

ーーとなり村の様子

チーチ「どーも、タイルさん、ミルクを持ってきましたよ。」

ーータイルとの会話

タイル「シリ?おー知っているとも、あのおてんば娘。また何かやらかしたんかい!?」

シリ「コワじゃない!?どうしてここにいるの?」

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